



大規模なプロジェクト案件が遅延すると、その企業の業績を大きく左右することもある。企業の経営陣がそのプロジェクトの見通しをある程度予測できれば、遅延しているプロジェクトがある場合は年度内の予算を達成するために別の案件に注力するという対応策を立てることもできる。製造や流通、サービス業を中心にITソリューションやサービスを提供している丸紅情報システムズでは、2008年まで「大規模なプロジェクト案件の進ちょく状況やその収支の途中経過などを把握しづらい」という課題を抱えていた。そのため、同社の経営陣からは「現在進行中のプロジェクトが順調かどうかという大まかな状況を効率的に把握したい」という要望があったという。
また、同社は当時、2009年度からの工事進行基準の適応を控えており、2008年度中にその計画を策定する必要に迫られていた。工事進行基準では、会計年度をまたぐような長期プロジェクトにおいて、その進ちょく状況に応じた売り上げを計上する必要があった。そのため、開発進ちょくを詳細に把握し、その進ちょく分に見合う売り上げと原価を正確に計上することが求められていた。しかし同社では、あるプロジェクトはMicrosoft Projectで、別のプロジェクトはMicrosoft Excelでというように、プロジェクトの現場では状況に合わせて個別に情報が管理されていた。
そこで、円滑なプロジェクト進行を支援する専門組織であるプロジェクト管理部では、その対応策としてプロジェクトに関する情報の共通基盤となるプロジェクト管理システムの導入を2008年4月から検討開始する。その後、システムインテグレータの統合プロジェクト管理システム「SI Object Browser PM」(以下、OBPM)の導入を決め、その運用を進めている。丸紅情報システムズがOBPMを選定したポイントは何だったのだろうか? 本稿では、同社が実施したシステムの選定、導入から現在に至るまでの過程を紹介する。

一般に、プロジェクト管理では“品質(Quality)”“コスト(Cost)”“納期(Delivery)”の3点を重視すべきであるといわれる。しかもコストだけを重視すると品質が低下したり、納期が遅れてしまうなど、それらのバランスを取るのが難しいこともある。
同社がシステムに求めていたのは「管理部門へのプロジェクト情報の可視化」だった。そのため、「基幹システムの原価情報との連動容易性」を重視していた。丸紅情報システムズのプロジェクト管理部 隠居浩利氏は、同社がツール導入を検討した2008年4月ごろは「ある特定の機能に強みを持つといった“部分最適化”されたプロジェクト管理ツールが多かった」と振り返る。そのため、「自社が必要としていた機能が足りなかったり、自社の既存システムに適応する製品が見当たらなかった」という。その後、同社は2008年11月にリリースされたOBPMをその候補として挙げ、導入可否を検討することになる。
同社はまず、2008年11月からシステムインテグレータの担当者とのヒアリングによって、システムの要件分析を実施した。自社のシステム構成や原価管理体制の現状などを洗い出し、「OBPMですぐに対応できる」「対応機能がない」といった差異(フィット&ギャップ)分析を行った。隠居氏は「もちろんすべてがフィットしたわけではない。バージョンアップなどの機能拡張を見越して、OBPMの導入に踏み切った」と説明する。要件分析実施の後に、同社はOBPMを購入する。
OBPMを選定したポイントについて、隠居氏は「1つのデータを複数の関連システムと連動できる“プロジェクト管理のERPシステム”という点」を挙げている。ほかのツールでは、管理系部分のコスト情報の連動性に難があったという。また、OBPMを開発元であるシステムインテグレータ自身が実際に使用していたこともあり「同業の企業が使用しているという実績も考慮した」と説明する。

OBPMには、請負型のシステム開発に関するWBS(作業分解図)テンプレートが搭載されている。丸紅情報システムズは2009年3月からそのテンプレートを活用しながら、自社内での検収を開始した。隠居氏は「共通性がなければ、ツール導入もできない。単にソフトウェアを購入するというよりも、すぐに活用できるノウハウも手に入れたかった」と説明する。
その後、丸紅情報システムズは2009年5月から、プロジェクト管理部でのシステム運用を開始する。プロジェクト管理部では現場からのヒアリングによって、各プロジェクトの進ちょくやコストなどのデータを収集・入力し、それらのデータと自社の基幹システムの情報を連携させ、プロジェクトの進ちょくや予算実績管理の報告資料を作成するようになった。

データ収集の段階では、OBPMに入力しやすいように現場の報告資料のフォーマットを変更する必要もあった。そのため、自社内のプロジェクト管理規程を適宜見直しながら、必要な成果物を作成した。同社では、そこで得たフィードバックを踏まえて社内規程を改善することで、「新規プロジェクトはその規程に従った形で実施することで、より質の高いプロジェクト実施や管理が可能になった」という。

さらに同社はOBPMのバージョン3がリリースされた2009年12月から本格的に運用を開始した。現在、プロジェクト管理部では各プロジェクトの管理項目の共通フォーマットを採用することで、管理資料の項目漏れがなくなり、その粒度の均質化が図られた。また、各プロジェクトマネジャーに対しても、プロジェクトの進行に対するより的確な情報提供や助言をできるようになったという。隠居氏は、OBPMの導入によって「管理レベルが低いプロジェクトを発見でき、管理レベルの底上げや均一化などに効果があったと感じている」と説明する。
また、工事進行基準への対策としては、予定実績管理における予測曲線の表示が可能になるなどその状況の可視化が増すことで「経営陣や管理部門がプロジェクトの見通しを把握でき、次の対策を練るために必要な情報の活用ができるようになった」という。同社では、今後のOBPMのバージョンに対しては、文書管理機能などのさらなる充実を求めているとしている。
同社におけるプロジェクト管理システムの導入は、まず“経営層や管理部門への適用”というアプローチだった。プロジェクト管理ツールに限らず、システム導入では現場からの反発が障壁となることも多い。隠居氏は「現場に対しては、プロジェクトマネジャーからの評価による口コミでの浸透ができればと考えている。自分自身でいいと思った場合と上層部から使用を強制されるのとでは、取り組み方が違う」と説明する。

丸紅情報システムズでは現在、OBPMの管理対象を大型プロジェクトに限定しているが、今後は小規模な案件へその適用範囲を拡大していきたいという。そのために隠居氏は「プロジェクトを開始するに当たり、類似プロジェクトの実績情報や設計書のひな型、さらにプロジェクトのテンプレートとしての情報提供という“コミュニケーションツール”として、その適用を進める」としている。
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出典:翁長 潤 著 「非“現場”からのツール適用を進めた丸紅情報システムズ」